前回は、「授業についていけている」状態が、
努力ではなく“整ったリズム”によって支えられているという話をしました。
先生のテンポ、家庭の環境、子どもの集中――
その歯車がかみ合っている限り、学びは自然に進んでいく。
けれど、そのリズムが少し崩れたとき、どうすればいいのでしょうか。
今回は、その“リズムの乱れ”が起きたときに、
親としてどう対応すれば良いのか――
とくに、「苦手教科が出てきたとき」に焦点を当ててお話しします。
「最近、算数だけ点が下がってきて…」
「英語の単語を覚えられないと言い始めて…」
そんな相談を受けることがあります。
ここで大切なのは、“全部を立て直そう”としないことです。
授業についていけなくなった教科があると、
親はどうしても「ほかも心配」と思ってしまいがちです。
でも、ほとんどの場合、
最初に崩れた教科を立て直すだけで全体は自然に戻っていきます。
勉強というのは、家の基礎のようなものです。
一か所の柱が傾くと、家全体が不安定に見えるけれど、
実際にはその一本を直せば全体のバランスは元に戻ります。
つまり、すべての教科を塾で抱える必要はないのです。
「算数が少し苦手」「理科の計算問題だけつまずいている」
――そんなときは、そこだけを短期間で補えば十分。
その小さな補強が、子どもの自信を守り、
“まだ大丈夫”という感覚を失わせないのです。
塾に通うというのは、“救急搬送”ではありません。
体調が崩れたときに、体を整えるようなものです。
だから、「授業についていけなくなった教科だけ補う」というのは、
実はとても自然で、理にかなった判断なのです。
ここで、もうひとつ大切な視点があります。
それは――一教科の立て直しが、他の教科にも波及するということです。
たとえば、英語を塾で学ぶことで、
「文を分解して理解する力」がつけば、
国語の読解力や社会の記述問題にも応用が利くようになります。
数学で「問題を整理して順序立てる力」を磨けば、
理科の実験レポートもぐっと読み解きやすくなる。
つまり、塾で学ぶのは“内容”だけではなく、
勉強の進め方そのもの――「学び方の型」なのです。
それを一教科で身につけると、
他の教科でも自然と再現できるようになる。
この“応用力の伝染”こそ、
部分的な通塾が持つ最大の効用だと私は思っています。
ですから、「ついていけない教科が出てきた」と感じたときには、
それを“危機”ではなく“調整のサイン”と捉えてください。
必要なのは、すべてを見直すことではなく、
一部分を静かに整える勇気です。
そこに早く気づき、早く動けた家庭ほど、
子どもは焦らずに立ち上がります。
逆に、何もせずに時間だけが過ぎてしまうと、
その苦手が“勉強全体の印象”を塗り替えてしまうのです。
塾の使い方は、人それぞれでいい。
ただ、「どの教科で、どの程度、何を整えるか」だけを
冷静に見極めることができれば、
通塾は最短距離の支えになります。
全部やる必要はない。
けれど、“ひとつだけ”を放置してはいけない。
それが、子どもの学びを長く、安定して支えるための
いちばんやさしい考え方です。
次回は、“全部を塾でやらせるより、必要な部分だけ整える”という
通塾の最適化についてお話しします。
塾を「抱え込む場」ではなく「選び取る場」として使う方法を、
もう少し具体的に見ていきましょう。
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