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第5回②/「“苦手”は、順番を間違えたところから生まれる」

前回は、“苦手”という言葉の正体について考えました。
「できないこと」ではなく、
「わからないまま時間が経ってしまったこと」。
そして、「まだ苦手」「まだ慣れてないだけ」という言葉が、
子どもに未来の余白を残すというお話をしました。

では、その“苦手”はどこから生まれるのでしょうか。
今回はその順番を、もう少し丁寧にたどってみましょう。


勉強のつまずきは、ある日突然ではなく、
「順番の狂い」から始まります。

たとえば数学。
公式や解き方そのものよりも、
その前に「なぜそうなるのか」を理解する時間が少なかったり、
前の単元の考え方を理解しないまま進んでしまったり。

“苦手”は、
内容の難しさよりも、積み木の順番のズレから生まれるのです。


私の塾でも、よくこういう生徒がいます。

「解答を読めばなんとなくわかるけど、
途中で何をしているのか自分では説明できない」

解答は答えが書いてあるので「正しいな」と思えるけれど、
自分がその考えにたどり着くことができない。
それは、解答に至る道筋を覚えていないからです。
なぜその順番で答えにたどり着くのか習得していない。
いつも思い出したことをバラバラに適用しようとしている。

“わかる”と“できる”のあいだに、
順序の混線が起きている状態です。

この状態を放置したまま授業が進むと、
学びは「迷路」になります。
どこから入ったのか分からないまま、
出口を探してぐるぐる回り続けてしまうのです。


“苦手”の正体は、能力ではなく、道筋の喪失。
順番を間違えたまま積み上げた知識は、
一見「覚えているようで、理解していない」状態を生みます。

それが定期テストや模試で露呈すると、
子どもは「自分はダメなんだ」と思い込み、
心に“苦手”というラベルを貼ってしまうのです。


けれど、順番が狂ったなら、やることはひとつ。
順番を戻せばいいだけ。

たとえば中学生なら、
「いまの単元の1つ前」を軽く復習するだけでも、
思考の流れが一気に整理されることがあります。

英語なら「前回の文法」から。
数学なら「去年の似たような単元」から。
連立方程式が分からないときには、方程式を確認する。
相似の図形が分からない時には、合同な図形を復習する。
わかるまで辿っていけばいい。
小学生の分野まで戻って復習してもいいのです。

“戻る”とは、過去に逃げることではありません。
今を整理し直すための行動です。


勉強とは、本来、前から順に積み上げていく構造です。
でも、学校の授業は全員一斉に進むため、
「わからなかったところ」に戻る時間がほとんどありません。

だからこそ、
“苦手”は放置ではなく、逆算で整える。
「今のわからない」が、
どの段階から始まっているのかを一緒に見つける。

それが、塾や家庭でのサポートの第一歩なのです。


ある中学生の女の子が、
「英語が本当に苦手で、なにしてもわからない」と言っていました。
詳しく聞くと、
単語の読み方も意味も分からないし、
文章の中で主語がどれか動詞が何かではなく、
「動詞」がなにかすら分からないまま進んでいたのです。

そこを一緒に整理し直したら、
彼女は一か月後にこう言いました。

「あ、私、英語が“苦手”じゃなかったんだ。
ただ、やらなきゃいけないことをしてなかったんだ。
やる“順番が間違えていた”だったんだ。」

その顔は、とても晴れやかでした。
“苦手”という鎖がほどけた瞬間でした。


“苦手”とは、能力の壁ではなく、
順番を取り戻せば消えていく一時的な霧です。

だから、もし子どもが
「自分はこの教科がダメなんだ」と言ったら、
こう伝えてあげてください。

「ダメなんじゃない。ちょっと順番を戻すだけだよ。」

そう言われた瞬間、子どもの目は変わります。
“苦手”という言葉に、もう力はなくなるのです。


次回・第5回第3パートでは、
その“順番を取り戻す”ときに欠かせない、
「安心して戻れる環境」についてお話しします。
学びが動き出すのは、叱られたときではなく、
「戻ってもいい」と言われたときなのです。

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