前回は、「部活が終わってから塾に行こう」という考えが、
実は“止まってしまうリスク”を生みやすいという話をしました。
部活をすることは悪くない。
けれど、“やらない理由”として使ってしまうと、
学びのリズムが静かに止まってしまう――。
今回はその延長線上で、
「勉強のリズムとは何か」をもう少し深く掘り下げてみましょう。
「うちの子は勉強時間が短いんです」
「塾に行っても集中できているのかわからなくて」
そんな言葉を、保護者の方からよく耳にします。
でも実は、“時間の長さ”はそれほど重要ではありません。
勉強は「時間の長さ」ではなく、「継続した量」で決まります。
たとえば、週に一度だけ一時間集中して勉強する子と、
毎日十五分でも集中して机に向かう子。
半年後に伸びているのは、後者です。
それは単純な“合計時間”の問題ではありません。
人間の脳は、「昨日やったこと」を前提に「今日の理解」を積み上げるようにできているからです。
昨日止めてしまえば、今日の勉強はゼロから再起動しなければならない。
けれど、昨日の流れを少しでも残しておけば、
今日のスタートは“途中”から始められる。
このわずかな差が、やがて大きな積み重ねになります。
私はこれを“知識の呼吸”と呼んでいます。
吸って、吐いて、また吸って――。
短くてもいい、浅くてもいい。
でも、その呼吸を止めないことが何より大事なのです。
長時間勉強することよりも、
「昨日の続きを、今日も少しだけ続ける」。
そのリズムが、学びの中に“流れ”を作ります。
流れがある人は、理解を「繋げて」考えることができる。
流れが途切れた人は、理解を「点」で扱うしかない。
同じ時間を使っても、結果がまるで違ってくるのです。
そして、この“流れ”にはもうひとつ大切な側面があります。
それは、「勉強のリズムは心のリズムに支えられている」ということ。
心が不安定なとき、
勉強だけを長時間させても、うまくいきません。
心が動いていないのに、体だけ机に向かわせても、
それは“空回り”になってしまう。
逆に、部活や家庭の中で、
「今日はこれができた」「昨日より少し進んだ」という実感があると、
その達成感が勉強の流れを支えます。
そして、これは逆もまた真なりです。
心のリズムが乱れているときこそ、
いつも通りの勉強をすることで、
少しずつ心を整えることができます。
学びの流れは、心の呼吸でもあるのです。
ここで一つ、実際の塾での例を挙げましょう。
部活で夜遅くまで練習をしている中学生がいました。
平日は疲れてほとんど時間が取れず、
「塾に通う意味があるのか」とお母様も悩んでおられました。
でも、その生徒は塾に来るたび、
十五分だけでも“前回の復習”をする習慣を守り続けました。
最初の数か月は、大きな変化はありません。
けれど半年後、驚くほどの違いが出ました。
「もう一度やり直す時間」がなくなったのです。
学びの流れが止まらないことで、
すべての授業が“前回の続き”になった。
復習ではなく、常に“積み上げ”。
それが本人の自信になり、結果的に受験期には
どんなに忙しくても崩れない、
“学びを続ける体質”を手に入れていました。
学びというのは、
「やるときに一気にやる」ものではなく、
「やらない日を作らない」ものです。
これは、時間を増やすというより、
“流れを守る”という考え方に近い。
部活も同じです。
筋トレや練習も、一日で劇的に成長はしません。
けれど、少しずつ積み上げたものが、
やがて「続けることに強い体」を作ります。
勉強もまったく同じです。
流れを守ることが、強さを作ります。
塾が支えるべきなのは、
その“流れ”を整える仕組みです。
通塾の目的は、長時間学習ではなく、
「続けるリズムを保つこと」にあります。
学びの呼吸を絶やさないための場所。
それが塾の本来の姿なのです。
次回・第3回 ③では、
「部活で鍛えた集中力を“勉強の筋肉”へ」
というテーマでお話しします。
体で覚えた努力のリズムを、
どう学びのリズムへ転用していくか――
その“橋渡し”の部分を一緒に見ていきましょう。
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